低い不動産鑑定額

前回のエントリーでは、住宅バブル前の水準まで価格が戻しておらず、今家を売っても購入価格を下回る価格しかつかない6都市を紹介しました。


誤解してほしくないのは、アメリカの住宅価格は小さなアップダウンはあるものの全体として右肩上がりです。

50 yrs Median Sales Price
(1968年〜2018年の過去50年間のアメリカ住宅価格中央値の推移)



長いスパンで家を保有するのでしたら、一時的に家の価格がダウンしても、そのまま住み続けているうちに回復するのでたいした問題ではありません。


しかし、家族の事情で急に決まった本帰国、ヘッドハンターから舞い込んだ他州での高待遇の転職などで、数年しか住んでいない家を売らなくてはならない人もいます。

家を売るタイミングがちょうど小さなアップダウンの「アップ」に重なればいいのですが、運悪く「ダウン」に重なってしまうこともあります。


そんなとき、思わず言いたくなるフレーズに

「とりあえず、買ったときの価格で売りに出して様子を見たい」

があります。


今日は、このフレーズがエリアによっては通用しませんよ、というお話です。



◆ マーケットはいつだって残酷なほど“正直”

例えば、10年前にコネチカット州ブリッジポートで220,000ドルの家を買ったAさん。
ご家族の事情で日本への本帰国が決まり、家を売ることになりました。


しかし、不動産エージェントからの提案された売り出し価格は160,000ドル。

今のアメリカ不動産は超売り手マーケットと聞いていたので、160,000ドルには到底納得できません。


Aさんの言い分を聞いてみましょう。

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10年前にこの家を買ったときは、新築だから大丈夫だと思ったしスクール・ディストリクトで値段が変わるとか、お手頃エリアで一番高い家はリセールが難しいとか全然知らなくて、たいした交渉もせず220,000ドル払いました。

我が家と同じサブディビジョンにある家はすべて、間取りも築年数も同じなんですが、それらが160,000ドル前後で売りに出されているのは知ってますよ。

でも、うちはキッチンもバスルームも一番ランクが高いオプションを選んだので内装にかけた金額が違います。
実際に見てもらえれば、分かります。

もしかしたら、我が家に一目惚れして220,000ドルで買ってくれる人がいるかもしれません。

試しに220,000ドルでマーケットに出して、もしオファーがなかったら、そのとき値引きするのはダメですか?


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コネチカット州ブリッジポートも住宅バブル前の水準まで価格が戻していない都市のひとつです。

ブリッジポート 住宅価格中央値



ダメ元でも220,000ドルで売りに出したい気持ちはよーーーーっく分かるんですが、やめておいたほうがいい理由を3つ言わせてください。



(1) 他の220,000ドル前後の家より見劣りする。

今の時代、ほとんどの買い手はインターネットで家探しを始めます。

銀行から220,000ドルまで融資可能というプリアプルーバルレターを受け取った買い手は、まず「ブリッジポート」「200,000〜220,000ドル」という条件で絞り込みます。


さて。
この条件で「検索する」をクリックした買い手の目に映る光景を想像してみてください。

「10年前は220,000ドルだったけど、今は正味160,000ドル」のAさん宅と「10年前は300,000ドルだったけど、今は正味220,000ドル」の家の両方がスクリーン上に並んでいます。

買い手がどちらの家に内覧予約を入れるか、説明するまでもありませんよね。


演技力はあるのに背が低かったり、顔が大きかったりする俳優さん(でもイケメン枠)を担当するやり手マネージャーは、イベントか何かの壇上に彼を立たせるとき、横一列に並ぶ俳優陣のリストを事前に入手して仕事を受けるかどうか決めます。

うっかりモデル上がりの長身&小顔俳優の横に並んでしまうとアラが目立ち、心ないネット民に「公開処刑!」とか言われます。

そうです。
Aさんがやろうとしている、正味160,000ドルの家を正味220,000ドルの家の横に並ばせるとは、すなわち◯◯◯◯を△△△△の横に並ばせるという蛮行なのです。
(↑パッと頭に浮かんだ俳優名を自由に記入可)



(2) 160,000ドルの家を探している買い手の目に入らないまま、DOM (Days on the market / 市場日数)が長くなっていく。

次に、Aさんの本来のターゲットであるはずの160,000ドル前後の家を探している買い手の立場で考えてみます。

銀行から160,000ドルまで融資可能というプリアプルーバルレターを受け取った買い手は、ネット検索で「ブリッジポート」「150,000〜160,000ドル」という条件で絞り込んで、内覧の予約を入れ始めるでしょう。

当然、220,000ドルで売りに出されているAさんの家は彼らの目に入らないまま、時間だけが過ぎていきます。


大手不動産検索サイトのZillowやRealtor.comは、その家が売りに出されてから何日経つのか(DOM)を掲載しています。

また、売り出されてから何日後にどれだけ値引きしたかもバッチリ載せています。


毎日、新しい物件が出ては契約が決まっていくなかで、DOMだけを更新し続ける家は“売れ残り感”が滲み出て、買い手に「何か問題があるに違いない」と疑いを持たせ、さらにオファーが遠ざかります。


またまた変な例えで恐縮ですが、「10年前に220,000ドルで買った家だから、220,000ドルで売りたい」とは、「10年前は25歳だったから、25歳当時付き合っていた男性と同レベルしか受け入れられない」と言い張り、プロフィールに「若く見えるとよく言われます」と書いてしまう婚活女性と同じです。

婚活男性にとって「その女性の10年前のモテ度」なんてどーでもいいように、家の買い手も「売り手がいくらで購入したか」に興味はないのです。



(3) アプレイザルの評価が低いと買い手の住宅ローン申請が通らず、せっかく進んでいた話が白紙に戻る。

アプレイザルとは、銀行による不動産鑑定評価です。

仮に、奇跡的に売り手の買い手のあいだで220,000ドルで合意でき、買い手は頭金20,000ドルを入れ、200,000ドルの住宅ローンを組むとします。


しかし、アプレイザルでその家が160,000ドルと評価されると、住宅ローン申請は却下され、売買契約は白紙になります。
160,000ドルの価値の家を担保に200,000ドルを貸すほど、銀行はおバカさんではありません。

参考:誰もあなたの家を買わなくなる?「低い不動産鑑定評価」の深刻度




不動産エージェントだって、できればAさんの家を220,000ドルで売りたいんです。

でも!
でも!!
マーケットはいつだって残酷なほど“正直”で、売り手も、買い手も、そして不動産エージェントもマーケットの大きな波には逆らえないのです。



次回は、「購入価格 > 売却価格」で家を売るときに言いたくなる、もうひとつのフレーズ「数年賃貸に出せば、そのうち価格が戻すだろう」についてお話します。





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